航空機部品や、防衛装備品のパーツとして使用されるアルミニウムですが、当社では加工実績を多数保有しています。
軽量で加工性に優れるアルミニウムですが、ミクロン単位の「高精度切削加工」を量産レベルで実現しようとすると、熱膨張による寸法変化や、素材の粘りによるバリ・溶着といった深刻な課題に直面します。「試作ではうまくいったのに、量産では公差が安定しない」とお悩みの設計者・購買担当者様も多いのではないでしょうか。
本記事では、アルミ加工の特性と難易度、寸法精度を維持するための熱対策(温度管理)、そしてA5052やジュラルミンなどの材質別加工ポイントを解説します。さらに、±4℃の恒温環境と独自のバリレス技術で、月産数千個の精密部品を安定供給する荻野工業の事例もご紹介します。
アルミ切削加工の特徴と量産における難易度
アルミニウム合金は、その軽量性と優れた加工性から、自動車、航空機、産業用ロボット、半導体製造装置など、あらゆる産業分野で採用されている重要素材です。一般的にアルミは「削りやすい(被削性が良い)」金属として知られていますが、それはあくまで「形にするだけ」の場合に限られます。
ミクロンオーダーの寸法公差や厳しい幾何公差が求められる「高精度部品」を、月産数千個単位で安定して「量産」するとなると、その難易度は格段に跳ね上がります。試作では良品が作れても、量産移行後に不良率が高止まりするというケースは少なくありません。本章では、設計者や購買担当者が理解しておくべきアルミ加工の特性と、量産時における品質維持の難所について解説します。
アルミ材(アルミニウム合金)の加工特性とメリット
アルミニウム(Al)の比重は約2.7と鉄(約7.8)の3分の1程度であり、軽量化が必須となる輸送機器や高速可動が必要なロボット部品に最適な素材です。
また、熱伝導率が高く放熱性に優れるため、ヒートシンクや電子機器の筐体にも多用されます。 切削加工の観点から見ると、アルミはS45C(炭素鋼)やSUS304(ステンレス)などの鉄系材料と比較して切削抵抗が低く、高速回転での加工が可能であるため、サイクルタイムを短縮しやすいというメリットがあります。
しかし、この「柔らかく延展性(伸びやすさ)に富む」という性質は、精密加工においては難しい点でもあります。
まず、延性が高いため、切削時に材料が粘りやすく、切りくずが刃物に溶着しやすい傾向があります。これが刃先に付着すると「構成刃先」を形成し、仕上げ面を荒らしたり(むしれ)、寸法不良を引き起こす原因となります。また、表面硬度が低いため、加工中や切りくず排出時、あるいは工程間の搬送中のわずかな接触で打痕やスクラッチ傷が発生しやすく、外観品質の管理に多大な工数を要する点もアルミ加工特有の課題です。
材質ごとの特性も理解が必要です。A5052(Al-Mg系)のような一般材は耐食性に優れますが粘りが強く、バリ処理や溶着対策が必須となります。一方で、A2017(ジュラルミン)やA7075(超々ジュラルミン)のような高強度材は、快削性があり切りくず処理は比較的容易ですが、強度を高めるための熱処理や内部応力の影響により、加工後の「歪み」が大きな課題となります。
なぜ「高精度な量産」が難しいのか?
試作段階で数個を製作するだけであれば、職人の勘や機械ごとの微調整(補正)によって、高精度なアルミ部品を作ることは不可能ではありません。しかし、これを自動化されたラインで連続加工する「量産」フェーズへ移行した途端、多くの現場で寸法精度のバラつき(ドリフト)という壁に直面します。その最大の要因は「熱」です。
アルミの線膨張係数は約23.6×10⁻⁶/Kであり、これは鉄(約11.8×10⁻⁶/K)の約2倍にあたります。つまり、同じ温度変化であっても、アルミは鉄の2倍変形するということです。 具体的には、100mmのアルミ製品の場合、温度が1℃変化するだけで約2.4μm寸法が変化します。もし工場内の温度が朝と昼で5℃変化すれば、製品寸法は12μm(0.012mm)も変動することになります。±0.01mm以下の公差が求められる精密部品においては、これだけでNG品(公差外れ)となる致命的な数値です。
量産加工では、工作機械を長時間連続稼働させるため、主軸の回転熱や切削熱が蓄積し、ワークやクーラント(切削油)の温度が徐々に上昇します。さらに、空調管理が不十分な工場では、外気温の変化もダイレクトに影響します。これらを制御できない環境では、「朝一番の加工品」と「昼過ぎの加工品」で寸法が異なってしまい、全数検査や頻繁な補正作業が必要となり、結果としてコストアップを招きます。 したがって、アルミの高精度量産には、単に高性能な工作機械があれば良いわけではなく、徹底した温度管理環境(恒温室等)と、熱変位を見越した高度な工程設計能力が不可欠なのです。
高精度加工を阻害する主な要因と対策ポイント
図面上の公差(寸法公差・幾何公差)を満足させるためには、アルミニウム特有の物理的性質を深く理解し、それに対する対策を工程に組み込む必要があります。特に量産加工において、品質を不安定にさせる三大要因は「熱」「溶着」「残留応力」です。ここでは、現場で発生しやすいトラブルのメカニズムと、その対策の定石について解説します。
最大の課題「熱膨張」による寸法変化
アルミニウムの加工において最も警戒すべきは「温度変化による寸法変位」です。 アルミニウムの線膨張係数は約23.6×10⁻⁶/K(20℃時)であり、これは鉄(約11.8×10⁻⁶/K)の約2倍、ステンレス(SUS304:約17.3×10⁻⁶/K)の約1.4倍に相当します。
例えば、長さ100mmのアルミ部品を加工する場合、素材温度が1℃上昇すると寸法は約2.4μm(0.0024mm)伸びます。 もし、空調管理のされていない工場で、朝(20℃)と日中(25℃)で5℃の温度差が生じた場合、製品寸法は約12μm(0.012mm)ほど変化します。 さらに、加工時は主軸の回転や切削抵抗によりワーク温度が上昇するため、クーラント(切削油)の温度管理が不十分だと、加工直後は公差内に入っていても、常温に戻った測定時に「寸法不足」となるトラブルが頻発します。
対策としては、工場全体の室温管理はもちろん、クーラントの温度同調(マシニングセンタ等の機内温度制御)や、仕上げ加工前のワーク冷却(ソーキング)工程の設計が不可欠です。
軟らかい素材特有の「バリ」と「構成刃先(溶着)」
アルミは「延性(伸びる性質)」が高く、融点が低い(約660℃)金属です。この性質により、切削時には切りくずが刃物に粘り着きやすく、「構成刃先(溶着)」が発生しやすいという課題があります。 構成刃先が生じると、刃先の鋭利さが失われるだけでなく、付着したアルミ片が脱落する際に加工面を引っ掻き、むしれ(テア)やスクラッチ傷を引き起こします。これにより、表面粗さが悪化し、外観不良やシール面の気密性低下に直結します。
また、粘り気が強いため、加工の終点部分で材料が完全に切れ落ちず、「バリ」として残留しやすいのも特徴です。特にA5052などの一般材は、高強度材に比べて粘り気が強く、大きなバリが出やすくなります。 量産工程では、バリ取りの手作業をいかに減らすかがコストダウンの鍵となります。そのため、切れ味の良いすくい角の大きな刃具(ポジチップ)の選定や、バリが出にくいカッターパス(刃の進行方向)の工夫、さらには機内での面取り加工まで完結させるプログラム設計が求められます。
材質別(A5052・A2017・A7075)の注意点
一口にアルミと言っても、合金の種類によって加工難易度と注意点は異なります。
- A5052(Al-Mg系): 最も一般的なアルミ合金ですが、切削加工においては「粘り」が強く、最もバリや溶着が発生しやすい難敵です。仕上げ面をきれいに保つには、切削速度の調整と潤滑性の高いクーラント選定が重要です。
- A2017(ジュラルミン) / A7075(超々ジュラルミン): 銅や亜鉛を添加し強度を高めた航空機・機械部品用素材です。これらはA5052に比べて硬く、切削時の切りくず分断性が良いため、比較的きれいな加工面が得られます(快削性がある)。 しかし、強度が要求される分、材料内部に「残留応力」が溜まっていることが多く、薄肉加工や非対称形状への加工を行うと、素材を削り取った瞬間に内部応力のバランスが崩れ、製品が反ったり歪んだりするリスクが高くなります。これを防ぐには、荒加工と仕上げ加工の間に応力除去のための放置時間を設けるなど、歪みを逃がす工程設計が必要です。
荻野工業が実現する「アルミ高精度量産」の技術と環境
前述の通り、アルミ加工の難所は「熱膨張」と「バリ・傷」に集約されます。これらを克服し、月産数百〜数千個単位の量産において安定した品質を維持するため、荻野工業では「環境」と「技術」の両面から徹底した対策を講じています。
±4℃の恒温環境による徹底した温度管理
アルミの高精度加工において、最も基本的かつ重要なインフラが「温度管理」です。 一般的な加工工場では、夏場や冬場の外気温の影響を受けやすく、朝と昼で工場内温度が10℃以上変動することも珍しくありません。これでは、どんなに高性能なマシニングセンタを使用しても、素材自体が膨張・収縮してしまい、ミクロン単位の寸法公差(例:±0.005mm)を維持することは物理的に不可能です。
荻野工業では、精密加工を行うエリアを「±4℃」の範囲で常時管理された恒温環境としています。 単にエアコンを稼働させるだけでなく、加工機ごとの発熱影響も考慮した空調設計を行い、ワーク(素材)、機械、クーラント(切削油)、そして測定器の温度を同調させています。これにより、熱膨張による寸法ドリフトを極限まで抑制し、A2017(ジュラルミン)のような温度感受性の高い材質であっても、安定した寸法精度での量産供給を可能にしています。
航空機部品で培った「バリレス加工」と工程設計
アルミ加工、特にA5052などの粘り強い材質において、コストを増大させる主因は「バリ取り工程」です。手作業でのバリ取りは人件費がかさむだけでなく、作業者による品質のバラつきや、誤って製品に傷をつけるリスク(ヒューマンエラー)も伴います。
当社では、航空機部品や油圧制御バルブといった「一切のバリ脱落が許されない」重要保安部品の製造で培ったノウハウを活かし、「バリを出さない(出ても微細にする)」および「機械加工内でバリを取り切る」工程設計を標準としています。 具体的には、以下のような対策を実施しています。
- 最適な工具選定: アルミ専用のすくい角が大きく、刃先が鋭利な超硬工具やDLCコーティング工具を使用し、構成刃先を抑制してバリの発生自体を抑えます。
- カッターパスの最適化: バリは刃物がワークから離れる(抜け際)瞬間に発生します。製品形状に合わせて、バリが出にくい方向へ刃物を走らせるパス設計を行います。
- 機内面取りの徹底: マシニングセンタやNC旋盤の工程内で、専用の面取りツールを用いてバリ除去まで完結させます。これにより、後工程の手作業を大幅に削減し、コストダウンと品質安定を同時に実現します。
複雑形状・薄肉部品の歪みを抑えるチャッキング技術
アルミは鉄に比べてヤング率(縦弾性係数)が低く、剛性が低い素材です。そのため、加工時のクランプ(固定)力が強すぎると製品が変形し、加工後にクランプを外した瞬間に「歪み」として跳ね返り、真円度や平面度が出ないというトラブルが発生します。逆に、固定が弱すぎれば加工中のビビリや脱落の原因となります。
特に、肉厚が薄いリング形状や、複雑な異形部品の量産においては、この「チャッキング(固定)」の技術が品質を左右します。 当社では、ワークの形状に合わせた「生爪(なまづめ)」の成形や、全周を包み込むように把持するコレットチャック、あるいは治具を用いた多点クランプなどを駆使し、「ワークにストレスを与えずに確実に固定する」技術を確立しています。 これにより、薄肉のアルミ筐体や、幾何公差の厳しいジュラルミン製内部部品においても、歪みを最小限に抑えた高精度加工を提供しています。
アルミ・ジュラルミンの高精度切削加工事例
荻野工業が実際に手掛けた、高精度なアルミ・ジュラルミン部品の量産事例をご紹介します。特に「温度管理」と「精密仕上げ」が重要となったケースです。
【航空業界】超々ジュラルミン(A7075)の恒温環境下での切削加工
航空機用センサーや制御装置に使用される、高強度アルミ合金(超々ジュラルミン A7075)の加工事例です。
- 製品概要: 航空機用内部部品
- 材質: A7075(超々ジュラルミン)
- 課題: 航空機部品は極めて厳しい寸法公差と品質管理が求められます。特にジュラルミンは熱膨張の影響を受けやすく、通常の工場環境では日内変動(朝と昼の温度差)だけで公差を外れるリスクがありました。また、素材自体の強度が高いため、加工時の内部応力解放による歪みも懸念されました。
- 荻野工業の解決策: 当社では高精度加工に対応できるよう、加工から検査までを「±4℃管理の恒温室」内で完結させることが可能です。さらに、加工工程においては、荒加工後に一度クランプ(固定)を解放して応力を逃がす工程を組み込み、歪みのない高精度な仕上がりを実現しています。航空宇宙規格(JIS Q 9100)に準拠した徹底した品質管理体制のもと、安定供給を行っています。
【油圧部品】アルミダイキャスト(ADC12)の精密仕上げ切削
自動車エンジンのピストン冷却に使用される「オイルジェット」部品の事例です。
- 製品概要: ピストン冷却用オイルジェット
- 材質: アルミダイキャスト(ADC12)
- 課題: 複雑な内部流路を持つため、アルミダイキャスト(鋳造)で素形材を作り、重要なシール面や嵌合部のみを切削で仕上げる工法を採用していました。しかし、鋳造品は素材ごとの寸法バラつきが大きく、そのまま自動ラインで切削すると、取り代(削る量)が安定せずに加工精度が乱れるという課題がありました。
- 荻野工業の解決策: 専用の治具と刃具選定により、ダイキャスト特有の寸法バラつきを吸収しながら、高精度な二次加工(切削)を実現しました。特にシール面においては、バリやカエリを完全に除去するパス設計を行い、油漏れのない高品質な量産体制を確立しています。月産数万個レベルの量産に対応した実績です。
アルミ部品のコストダウン・安定調達なら荻野工業へ
アルミの高精度加工は、単に「削る」だけでなく、「温度を管理し、歪みを制し、バリを無くす」総合力が問われます。 荻野工業(量産精密金属加工コストダウンセンター)は、±4℃の恒温環境と、航空機部品で培った品質保証体制、そして月産数百~数千個に対応する量産キャパシティを兼ね備えています。
- 試作から量産まで一気通貫: 開発段階の試作加工から、コストダウンを見据えた量産ラインの構築まで、ワンストップでサポートします。
- 難削材・複雑形状に対応: A5052、A2017、A7075をはじめ、薄肉形状や異形部品の歪みレス加工に強みを持ちます。
- VA/VE提案: 「この形状なら、ここをこう変更すればコストが下がる」といった、加工屋視点での設計変更提案も積極的に行っています。
「現在のサプライヤーでは精度が安定しない」「アルミのバリ処理に困っている」「量産の発注先を探している」という設計・購買担当者様は、ぜひ一度ご相談ください。