航空機や産業機器の軽量化に欠かせないジュラルミン(A2017/A7075)。鋼材並みの強度を誇る一方、切削加工においては「加工後の歪み」や「熱変位」といったトラブルに悩みやすい難削材でもあります。試作ではうまくいっても、量産時に精度が安定せずお困りの設計者様も多いのではないでしょうか?

精度の高い部品を安定して調達するためには、素材特性への深い理解と、それに対応した適切な工程設計が不可欠です。

本記事では、ジュラルミンの基礎知識やA2017・A7075の違いから、歪みを抑える加工のポイント、そして荻野工業ならではの高精度量産事例まで詳しく解説します。

ジュラルミン(A2017/A7075)とは? 特徴とステンレス・鉄との違い

ジュラルミンとは、アルミニウムに銅(Cu)やマグネシウム(Mg)などを添加し、熱処理によって強度を飛躍的に高めたアルミニウム合金の総称です。一般的なアルミニウム(純アルミやA5052等)と比較して機械的強度が非常に高く、鋼材に匹敵する強度を持ちながら軽量であることから、航空宇宙産業や自動車、精密機器の構造部品として広く採用されています。

設計・開発において、ステンレスや鉄からの代替、あるいは高強度化を目的とした素材選定を行う際、A2017(ジュラルミン)とA7075(超々ジュラルミン)の特性理解は不可欠です。

ジュラルミン(A2017)と超々ジュラルミン(A7075)の特性比較

ジュラルミン系合金の中で、最も代表的なのがA2017とA7075です。それぞれの特性を理解し、用途に合わせて適切な素材を選定する必要があります。主な違いを以下の表にまとめました。

特性項目ジュラルミン (A2017)超々ジュラルミン (A7075)
主な添加元素Al-Cu-Mg (銅系)Al-Zn-Mg-Cu (亜鉛系)
強度 (引張強さ)高い (鋼材並み)極めて高い (アルミ最高峰)
切削加工性良好良好 (※歪みやすい)
耐食性低い (腐食しやすい)低い (応力腐食割れ注意)
主な用途航空機部品、一般機械、構造材航空機、人工衛星、金型、スポーツ用品
コスト標準的高価
  • A2017(ジュラルミン):SS400などの一般鋼材に匹敵する強度を持ち、切削加工性も比較的良好です。航空機のリベットや一般機械部品として広く使用され、コストと強度のバランスが良いのが特徴です。
  • A7075(超々ジュラルミン):現存するアルミニウム合金の中で最高クラスの強度を誇ります。極限の軽量化と高剛性が求められる分野で採用されますが、材料コストが高く、加工においては応力除去などの厳密な管理が求められます。

航空機や精密機器に採用される理由

ジュラルミンが選ばれる最大の理由は「比強度(強度重量比)」の高さにあります。

鉄やステンレスの比重が約7.8であるのに対し、ジュラルミンの比重は約2.8と、3分の1程度の軽さです。同じ重量であれば鋼材よりもはるかに高い剛性を確保でき、同じ強度であれば大幅な軽量化が可能となります。

また、切削加工の観点からは「快削性」も評価されます。S45CやSUS304と比較して切削抵抗が低いため、高速切削が可能であり、加工時間の短縮に寄与します。

知っておくべきデメリット:耐食性と応力腐食割れ対策

優れた機械的性質を持つジュラルミンですが、設計上注意すべき最大の欠点は「耐食性の低さ」です。

強度を高めるために銅(Cu)を多く添加しているため、腐食しやすい性質を持ちます。そのため、使用環境に応じて**アルマイト処理(陽極酸化処理)**や塗装などの表面処理が必須となります。

また、特定の腐食環境下で引張応力が作用し続けると、突如として破壊に至る「応力腐食割れ(SCC)」のリスクがあります。特にA7075などの高強度材においては、適切な熱処理(T73処理等)や設計配慮が重要です。

ジュラルミン加工の難易度と課題|なぜ「歪み」が発生するのか

ジュラルミンは一見「削りやすい」素材ですが、**「高精度な寸法・幾何公差を維持して量産できるか」**という観点では、非常に難易度の高い素材です。特に、薄肉形状や複雑な切削を行う場合、加工中や加工後に発生する「歪み(反り)」が設計者の頭を悩ませます。

切削加工時の熱と「加工硬化」によるトラブル

アルミニウム合金の熱膨張係数は、鉄鋼材料の約2倍です。切削加工時の摩擦熱によってワーク(被削材)が膨張しやすく、熱を持った状態で寸法を出しても、常温に戻った際に収縮して公差外れを起こすケースが多発します。

特にA7075を高速で削る場合、発熱量は大きくなるため、切削油(クーラント)による冷却管理と、熱変位を見越した厳密な寸法補正が不可欠です。

内部応力の残留による加工後の「反り・歪み」

ジュラルミン加工において最も深刻な課題が、材料内部に潜む「内部応力(残留応力)」の解放による歪みです。素材製造時に封じ込められた内部応力が、切削加工によって表面を削り取られることでバランスを崩し、材料が変形しようとします。

特に、A7075材で薄肉のリング形状などを削り出す場合、チャッキング(固定)を外した瞬間に楕円に変形したり、反り返ったりすることがあります。これを防ぐには、荒加工と仕上げ加工の間に適切な工程を挟むノウハウが求められます。

溶着と構成刃先(寸法精度のバラつき原因)

アルミニウム合金は他の金属とくっつきやすい性質を持っています。切削時に発生した切りくずが、熱によって工具の刃先に溶け付く「溶着」が起きると、「構成刃先」と呼ばれる堆積物が形成されます。

これが一時的な刃として振る舞うことで、実際の工具径が変わり、寸法精度が狂ったり、面粗度を著しく悪化させたりします。これを防ぐには、アルミ加工に適した工具選定と潤滑性の高い切削油の選定が必要です。

荻野工業のジュラルミン加工技術|高精度と量産安定性を両立するポイント

ジュラルミン、特にA7075のような高強度材の高精度加工において、最も重要なのは「設備」だけではなく、素材の挙動を予測した「工程設計力」です。

私たち「量産精密金属加工コストダウンセンター(荻野工業)」は、試作レベルの精度を量産ラインで安定して再現することに特化しています。

内部応力を除去する適切な熱処理と工程設計

加工後の歪みを防ぐためには、加工工程を単に「削る」だけで完結させないことが肝要です。

当社では、形状や公差の厳しさに応じて工程を細分化します。例えば、荒加工によって材料内部の残留応力を意図的に解放させ、必要に応じて**アニール処理(応力除去焼き鈍し)**を行い、素材の状態を安定させてから最終的な仕上げ加工(精加工)を行います。

また、薄肉形状のワークに対しては、チャッキング(固定)による変形を防ぐため、治具の掴み代や圧力を最適化する独自のノウハウを持っています。

ミクロン単位の公差を実現する設備と切削条件の最適化

溶着や構成刃先を防ぎ、鏡面に近い面粗度を実現するために、当社ではアルミ加工に特化した切削条件のデータベースを構築しています。

高剛性のNC旋盤やマシニングセンタを用い、以下の要素を最適化することで、内径公差0.05mm以下、面粗度Ra0.8といった高精度加工を常時実現しています。

  • 工具選定: すくい角が大きく、鏡面研磨された超硬工具やDLCコーティング工具を選定。
  • クーラント管理: 冷却性と潤滑性を両立させた高圧クーラントの活用。
  • 温度管理: ワーク温度を一定に保つための加工サイクルの調整。

量産加工における品質保証体制(A7075等難削材の安定供給)

「1個だけ高精度に作る」ことと、「1万個すべてを高精度に作る」ことは、全く別の技術です。

A7075のような難削材は、ロットごとの素材のバラつきや工具摩耗による寸法変化が起こりやすいため、厳格な工程能力(Cpk)の管理が求められます。

荻野工業では、最新の画像測定機や三次元測定機を用いた全数検査体制(または統計的工程管理)を構築可能です。加工現場でのインプロセス計測と、品質保証部門による出荷検査のダブルチェックにより、不良品の流出を未然に防ぎます。

【事例紹介】超々ジュラルミン製シリンダー(A7075)の加工実績

ここまで解説した「歪み抑制」や「高精度切削」の技術が、実際の製品でどのように活かされているか、当社の加工実績をご紹介します。

こちらは、産業用機械に使用される重要保安部品であり、素材には最高クラスの強度を持つ「A7075(超々ジュラルミン)」が採用されています。

深穴・薄肉形状でも公差0.05mm・面粗度Ra0.8を実現

この事例の最大のポイントは、難削材であるA7075に対し、深穴加工と高精度な仕上げを同時に実現している点です。

筒状(シリンダー形状)の部品加工において、内径の仕上げは非常に難易度が高い工程です。特にA7075のような硬い素材の場合、切削抵抗が大きく、かつ切りくずが内側に溜まりやすいため、加工面が傷ついたり、熱による歪みで真円度が崩れたりするリスクがあります。

当社では、最適な工具選定と切りくず排出性の高い切削条件を確立することで、以下の厳しい要求スペックをクリアし、量産化に成功しました。

  • 加工素材: A7075(超々ジュラルミン)
  • 製品用途: 産業用機械部品(シリンダー)
  • 加工精度: 内径公差 0.05mm
  • 表面粗さ: 面粗度 Ra0.8

本製品は、高い強度が求められる一方で、摺動部品として滑らかな表面粗さが不可欠でした。旋盤加工による精密なコントロールにより、研磨レスでも十分な面粗度を実現し、トータルコストの低減にも貢献しています。

▼事例の詳細はこちら▼

ジュラルミン部品の高精度加工・量産なら荻野工業へ

ジュラルミン(A2017)や超々ジュラルミン(A7075)は、軽量かつ高強度という優れた特性を持つ反面、加工時の熱変形や残留応力による「歪み」のコントロールが非常に難しい素材です。

試作段階では何とか形になっても、いざ量産へ移行した際に「精度が安定しない」「歩留まりが悪い」という課題に直面するケースは少なくありません。

荻野工業(量産精密金属加工コストダウンセンター)は、そうした設計開発者・購買担当者の皆様の課題に対し、確かな技術と実績でお応えします。

試作から量産まで一貫対応。コストダウンと品質向上をサポート

当社は単なる部品加工会社ではありません。お客様の図面に対し、加工のプロフェッショナルとしての視点から**「品質を維持したままコストを下げるためのVA/VE提案」**を行うことを得意としています。

  • 高精度量産: A7075等の難削材でも、月産数百〜数千個レベルで安定供給。
  • 工程設計力: 歪みを抑える熱処理や、最適な加工手順の構築により、後工程(研磨等)の削減や不良率低減を実現。
  • 品質保証: 最新の測定機器による厳格な検査体制で、航空機・産業機器グレードの品質を担保。

「図面通りのものをただ作る」だけでなく、「どうすればもっと安定するか」「コストを抑えられるか」を共に考え、最適なモノづくりを提案いたします。

お問い合わせ・技術相談の流れ

現在、ジュラルミン部品の調達でお困りの案件がございましたら、ぜひ一度お問い合わせください。具体的な図面がある場合はもちろん、構想段階での材質選定や加工可否の技術相談も承っております。

  1. お問い合わせ: お問い合わせフォーム、またはお電話にてご連絡ください。
  2. 図面検討・お見積り: いただいた図面や仕様に基づき、最適な加工方法とお見積りを提示します。
  3. 試作・量産: 試作による品質確認を経て、量産体制へと移行します。

まずは、皆様の抱える課題をお聞かせください。