当社では、硬度・靭性・耐久性を持つ部品の製造を数多く行っており、製品の加工工程において熱処理指定のある図面をよくいただきます。当社では熱処理の一部を内製化していますが、その多くは協力企業様に依頼をし、手掛けていただいています。しかし、知見がないかといえばそうではありません。

熱処理は、入熱の前後で歪み・振れ等、部品に持たせていた精度を損なわせてしまう処理であり、知見がなければ、不要な仕上げ工程が発生してしまいます。

1.調質(焼き入れ・焼き戻し)とは?

調質とは、熱処理の中でも最もポピュラーな熱処理技術で、焼き入れ・焼き戻し処理とも呼ばれます。

まず、鋼(はがね)を赤熱させて、油や水などで急冷する”焼き入れ”と、所定の温度に再度加熱する”焼き戻し”があります。一般的に焼入れにより高い硬さが得られ、耐摩耗性が向上するとされています。その一方で焼き入れを行っただけでは脆く、不安定な状態となっています。そこで、行うのが所定の温度に再度加熱する焼き戻しです。焼入れ後、約600℃前後まで焼戻しを行うことで鋼(はがね)は強靭化するとされており、この熱処理を行うことで、鋼の強度を高めることが出来ます。この、焼き入れ・焼き戻し処理までを行う工程を調質と言います。

2.浸炭・窒化処理とは?

浸炭・窒化処理は通常のガス浸炭よりも低い800℃程度の温度で鋼の表面に炭素と窒素を同時浸入させ、その後焼入して硬化させる処理です。ガス浸炭・窒化は、通常のガス浸炭雰囲気にNH₃ガスを添加し、NH₃から分解したN成分により、窒化と浸炭が同時に行われます。窒化により焼入性が向上します。またガス浸炭よりも低い温度で焼入できることから、熱処理による変形や歪も低減できます。

また、合金鋼に浸炭・窒化処理を行うと、均一な焼入れ組織(マルテンサイト)となるため、表層部の硬度低下を抑制することが可能です。さらに浸入した窒素により、部品が高温下にさらされた時の硬さ低下(熱なまり)が抑えられる効果も付与されます。

3.高周波焼入れとは?

鋼全体ではなく、表面の特定部分に耐摩耗性や耐疲労性を与える目的で、その必要な個所のみを加熱し焼入れする熱処理の手法の一つです。鋼部品の外周や内面に近接したコイルに高周波誘導電流を通すとコイルに磁力が発生し、同時に鋼部品に渦電流が発生します。

この渦電流は表皮効果によって鋼部品の表面に集まり、誘導電流による抵抗熱で表面が急速加熱されます。その後直ちに、水などの冷却液で急速冷却することで、鋼材の表面だけを硬化します。これが高周波焼入れです。しかし、加熱したままでは靱性が低下するため、150~200度の低温で焼戻しを行います。

高周波焼入れを行った製品の特性としては、表面には耐摩耗性、内部には靭性を兼ね備えることができ、しかも、焼入れ硬化層には高い圧縮残留応力が存在しているので耐疲労性も非常に優れていることです。また、電流が部分的で表面のみに流れるため、部品全体の変寸や変形のリスクを最小限に抑えることができます。